旅立ち(思春期のころ)
暑い夏の記憶
ぼくの中の不思議
顔を見るだけで腹が立つ
握りしめた拳がもとにもどらない
脳の回路にプログラムされたらしい
思い出しただけで怒りが込み上げてくる
1回2回3回と深呼吸をしてみても駄目
むずかしい話に相槌打って
わかったふりして頷いてみる
何か意見はと声掛けられても
ただ笑って黙っている
情けなく惨めになることもたまにある
違うんだよと首を横に振って
身体全体で否定したいあなたの動作
口を出すと何様かと思われそうで
敢えて見ない振りをする
見えなければ楽な場合だってある
ガッツポーズだけではまだ足りない
スキップして飛び跳ねてみる
そんなこと恥ずかしいじゃないかと
クールに自制する自分がいる
澄ました顔が不自然に見えるのはそんなとき
身体を揺すって笑いたい
まわりの雰囲気がそれを許さない
歯を食いしばって大袈裟にこらえる
泣いてるんじゃないよ
身体を丸めて必死で我慢してるんだ
捨て身の覚悟で守り抜く
静かにこころの底から湧きあがる
あの声あの顔を思うとき
説明できない不思議な力
そんな親が子を思う気持ちのようなもの
なにも考えない
君の視線と思春期
木製の机と椅子が並ぶ教室。
刃物でいたずら書きされデコボコした机。
コッペパン、牛乳、
おかずが並んだアルミのトレー。
脱脂粉乳に取って代わったビン入り牛乳。

「いただきます」の掛け声。
いつものように牛乳瓶の蓋をとる。
蓋の裏面に付いた一滴を舐める。
それは癖だった。

食事の始まりの儀式みたいなものだった。
普段と変わらない食事の始まりだった。
蓋を舐めながら
何気なく首を傾げた方を見る。
「……」。

一瞬ぶつかった視線。
視線の先には君がいた。
頭の中は真っ白に染まった。
君の名前を
10回くらい叫ぶことができるような
時間にも思えた。

その一瞬は、
目が点になった君の顔の表情を、
恥ずかしさで
顔が火照った自分の感情と一緒に、
カメラのシャッターのように
脳裏に焼き付けた。

・
・
・
・
・
・
・
中1の春。
・
・
・
・
・
・
・
・
思春期だった。
ご訪問ありがとうございました。
また来てくださいね。
帰りに ↓“ポチリ”↓ とやってくれると喜びます。
